世界一美しい寺院といわれる世界遺産アンコールワットで有名なカンボジア。
40年前にポルポト政権により大量虐殺が起こり、人口の約80%が14歳以下の子ども社会が出来上がってしまったことはつい最近の話に感じます。しかし今、急激な経済発展によりGDPは上昇し、首都にはたくさんの富裕層が生まれています。
経済発展は順調でありますが、医療の事情はまだまだ追いついていません。
その中でもカンボジアの出産事情はまだまだ発展途上です。富裕層は自国の医療が充分でないため、飛行機に乗り近隣国のタイやシンガポールに行き出産や治療をする場合も多いと聞きます。その逆の貧困層は田舎から出ることが出来ず、医療設備が充分でないヘルスセンターや公立病院、中には伝統的産婆により自宅出産をされる方もいます。
出産費用もケタ違いです。カンボジアの平均月収が100USドルから300USドルです。職業別に見ますと、農民は100USドル、看護師200USドル、医師300USドルが平均と言われています。田舎の公立病院は自然分娩で約15USドル。私立病院では1200USドルです。これでは、貧困層は医療を受けられません。
また日本では当たり前になっている妊婦健診もカンボジアでは全員が受けているわけではありません。カンボジアでの統計はとれていませんが、現地では経産婦ほど妊婦健診を受けている人の割合が少ないです。何度も産んでいるからもう大丈夫!と必要性を感じてないのかもしれません。また妊婦健診は貧困層には無料の場合が多いですが、超音波検査(エコー)を受けるとなると別途の支払いが必要になります。これでは、早期発見できる疾患を見逃す可能性も大いにあります。
田舎地区のカンボジアの産婦さんたちは、陣痛を感じたら自宅から病院やヘルスセンターへ移動します。移動の仕方は車やトゥクトゥク、バイクです。痛みを感じながらバイクにまたがり来院する母親たちの姿は、とても力強く見えます。
日本でも車の揺れは、陣痛を強めたり、お産の進行を早める効果があると言われていますが、カンボジアでも乗り物に揺られてきた人たちは(とくにバイク)見事に強まりあっという間に産まれる印象があります。もし、バイク乗車中に生まれてしまったら危険なので避けてもらいたいところですが、現在のカンボジアではバイクが主な乗り物であるため、それは難しそうです。日本と違うところは、基本的に病院には医療器具しかないので、産後のナプキンや出血を拭くペーパーも自分たちで持参してもらいます。
家族全員で迎える出産
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そして家族総出で病院にきて生まれるまで、誰かが産婦のそばにいて、腰や背中をさすり過ごします。カンボジアのお産には家族が必ずついており産婦の不安を解消する役割を買って出てくれています。生まれてくる新しい命を家族みんなで迎える。
この風景をみると、こころがホッとなごみます。それと同時に日本はいつからこの風習が消えてしまったのだろうと寂しくなる気持ちもあります。出産後は、だいたい翌日に再びバイクにまたがり、また自宅に帰ります。
自宅に帰る前に必ずすることがあります。それは赤ちゃんの予防接種です。なんとこれは無料で打てます。カンボジアでは、予防接種に力を入れているのがとてもよくわかります。カンボジアでは生まれたその日、もしくは翌日に予防接種を産んだ病院やヘルスセンターで打ってから帰ります。これが予防接種を受ける率が格段に上がった理由の1つと言われています。
カンボジアの出産事情・医療の現状は、まだまだこれから進歩が必要ですが、首都プノンペンでは外国人の出産を受け入れてくれる病院も徐々に増えています。日本人の医師も増えてきているのでどんどん安全性が高まり、グローバル化していくだろうと感じます。
しかし、家族の絆や愛情をとても強く感じるカンボジアのお産の形はそのまま残ってほしいと思っています。
ライター:nuco
プロフィール:日本で看護師・助産師として7年程働き、その後海外・カンボジアで医療ボランティア活動しています。カンボジア移住についての話や医療についての現状などブログにしています。
運営者より:
いかがでしたか? 日本では十分なくらいに整った環境の中で出産を迎えることができますが、出産の立会いは父親すら断られる病院もある中で、家族全員で迎えるスタイルは素敵ですね。医療現場に携わる方は少数かもしれませんが、”働く”と言う視点からは、日本で積んだ経験を海外で活かす、と言う選択として、海外での医療現場をご紹介しました。海外事情にも目を向けるとあなたの可能性も広がるかもしれません。